ブルーラジカル装置が変える歯周病治療の新常識
診療内容について
歯周病治療における最新のブレイクスルーとして、いま最も注目を集めているのが「ブルーラジカル装置」を用いた非外科的アプローチです。これまで外科的処置や抜歯が必要だった重度の歯周病にも、切らずに対応できる可能性が広がり、歯科医療の選択肢を大きく変えようとしています。

歯周病治療は、デンタルプラークとの戦い
そもそも歯周病とは、歯と歯ぐきの境目にたまるデンタルプラーク(歯垢)に潜む細菌が引き起こす慢性的な感染症です。炎症が歯ぐきに広がることで、やがて歯を支える骨が溶け、歯のぐらつきや痛み、最終的には歯の喪失へとつながる恐れがあります。
従来の歯周病治療の限界
これまでの歯周病治療は、歯科医師や専門の歯科衛生士による「スケーリング(※1)」や「ルートプレーニング(※2)」といった歯石・歯垢の機械をつかった手技による除去に加え、抗生剤の投与が中心でした。軽度〜中等度であれば効果があるものの、重度の歯周病では外科的な切開やフラップ手術が必要となり、患者の身体的・心理的負担が大きいことが課題でした。
特に、深い歯周ポケットや難アクセス部位に入り込んだ細菌・バイオフィルムは、従来の手法だけでは取りきれないことも多く、患者の負担と再発のリスクが課題とされてきました。
ブルーラジカル装置がもたらした解決
このような課題を根本から見直すきっかけとなったのが、ブルーラジカル装置による治療法の登場です。ブルーラジカルとは、過酸化水素と光エネルギーを組み合わせて生成される高反応性のラジカル(活性種)で、強力な除菌効果を持ちながらも組織へのダメージを抑えることができます。
ブルーラジカル治療は、歯周ポケットの奥深くまで到達し、細菌のバイオフィルムを破壊・除去することが可能です。これにより、従来は外科的処置が必要だったケースでも、非外科的に改善できる可能性が広がっています。
ブルーラジカル装置が持つ3つの強み
近年、歯科治療では「非外科的治療」と「非侵襲的治療(ノンインターベンション)」という考え方が重要視されています。(※3)非外科的治療とは、文字通り「外科的な切開を行わない治療」であり、身体へのダメージや術後の不快感を大きく軽減することができます。一方、非侵襲的治療は、外科・非外科に関係なく「必要以上に組織を傷つけない」「削らない」「抜かない」ことを目的とする治療方針です。
ブルーラジカル治療は、この2つのアプローチを同時に叶える画期的な治療法であるといえます。
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1)深部まで届く強力な除菌力
ブルーラジカルは、目に見えないバイオフィルムを分解し、歯周ポケットの深部に潜む細菌までしっかりと除去します。機械的な清掃だけでは届かない領域にも作用するため、治療の確実性が向上します。
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2)非外科的アプローチで患者の負担軽減
メスでの切開や縫合を伴わずに歯周病の重症例にアプローチできるため、身体的なダメージが少なく、術後の回復もスムーズです。高齢者や全身疾患を抱える患者にも優しい治療法です。
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3)再発リスクの軽減と長期安定性
徹底した感染除去により、治療後の歯周環境が清潔に保たれやすくなります。これにより、再発リスクを低減し、長期的な安定が見込まれる点も大きな利点です。
技術開発の背景にある理念
ブルーラジカル技術の開発を主導したのは、東京医科歯科大学の補綴学教授・菅野太郎氏です。補綴治療における成功には、被せ物や義歯の土台となる歯周組織の健康が不可欠であり、口腔内の感染管理が鍵であるという視点から研究を重ねてきました。
国内外の補綴学トップランナーたちの論文を数多く読み込み、「歯科医療の成否を分けるのは、徹底した感染除去である」という結論に至った菅野教授は、その手段としてブルーラジカル除菌に着目。臨床応用へとつなげました。
今後の歯周病治療の主流となるか
歯周病は自覚症状が出にくく、気づいたときには重症化しているケースも少なくありません。だからこそ、再発しにくく、痛みの少ない非外科的・非侵襲的の治療法の存在は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
ブルーラジカル装置は、そうしたニーズに応える“これからの歯周病治療”の中核技術として、多くの歯科医院で導入が進みつつあります。
従来の治療法に限界を感じていた歯科医師、そして不安や負担を抱えていた患者にとって、画期的な選択肢が生まれた今、「歯を守る治療」は新たなステージへと進化を遂げようとしています。
(用語説明※1)スケーリング
目的:歯の表面や歯ぐきの下の歯石(縁上・縁下)を除去する処置
使用するもの:超音波スケーラー(機械的に振動で歯石を破砕)、ハンドスケーラー(手用器具。歯科衛生士が繊細に調整)
→ 多くの医院では 「超音波+ハンド」の併用が一般的です
(用語説明※2)ルートプレーニング
目的:歯根の表面の粗さや感染セメント質を滑らかにし、歯周組織の再付着を促す処置
使用するもの:キュレットなどのハンドインスツルメントが中心、一部のケースでは、専用の器具やマイクロエンジンなどを併用することも
→ より繊細な処置のため、手作業(手技)中心の治療です。
(用語説明※3)非外科的と非侵襲的について
医療用語でよく使われる「非外科的」と「非侵襲的」。どちらも「体への負担が少ない治療」を意味しますが、少しだけニュアンスが異なります。
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- 非外科的:メスで切開したり、縫ったりしない治療のこと。
- 非侵襲的:体に傷をつけない、痛みや出血のない処置全般を指します。
たとえば、ブルーラジカルやハイフはどちらにも該当し、患者さまへの負担が少ない「やさしい治療」です。
用語 | 意味 | 具体例 | ニュアンス |
非外科的 | メスなどで切開しない治療 | 薬剤処置・レーザー治療など | “切らない”ことを強調 |
非侵襲的(non-invasive) | 身体に傷や強い負担を与えない処置全般 | レントゲン・CT・光照射・マウスピース治療など | “体にやさしい”全般を指す |